草花を好きになること
草花を好きになったのはほんの最近のことだった。
3年前までは東京の出版社で仕事をしていたが、妻との結婚を機に「寿退社」し、再就職のアテもないまま、能勢町に引っ越してきた。
しばらくは、わずかな貯金と退職金、ハローワークからの給付金で生きようと思ったが、どうにもこうにも暇だった。なにより、妻の出勤を見送る毎日は非常に肩身が狭かった。
ある日、ひょんなことから区長さんに地元の植木屋さん紹介してもらった。根っからの文系で、女性にも腕相撲で勝ったことがないほど非力な僕にとっては、俳優をするとか、ジャニーズに入るとか、格闘家になるとか…、それくらい思いもよらない再就職先だった。「でもまあ、木を散髪するくらいのことだから自分にもできるだろう」と思っていたが、初日から生コンがモリモリの一輪車を引いて坂道を下ることになり、世の中、甘くないと痛感した。
1年目の春のことだった。植木畑にあるウメを前に親方が「これは緑萼(りょくがく)いうウメで、花は白いんやけど、萼が緑の品種で、蕾がぽっと出たときがいちばんキレイなんや」と説明してくれた。その時期が来ると、無骨な枝に、ぽっぽっぽと、淡い薄緑の蕾がついている緑萼がみれた。素朴で、美しかった。モノを見る目が変わり、いっさい興味のなかった草花を、いつでもどこでも、自分の価値観の中心に据えるようになった。
きっと、親方はいっさい覚えていないだろうけど。
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